2014
02.10

格好良い奴ならいいのか?


脱衣所に駆け込んだ後輩は、脱いだシャツとズボンを洗面台で洗った。
今どきの若者らしいのか知らんけど、シャツの下は素肌。暑い季節だしな。
ズボンの下は、大学時代から愛用してる濃紺のビキニショツだった。

風呂では運悪くというか、妻が入浴中だった。後輩の性格からして、
他人の家で風呂場に足を踏みときは「失礼します。入ります」と
ひと声をかけるんだが、その時はなし。酔ってたし慌ててたんだろう。

それでも風呂場に誰かいるってことくらい、音や気配で分かるはずだが、
そこまで気が回らなかったのか、よっぽど大事なシャツやズボンだったのか。
とにかく染みができないよう、後輩は一心不乱に手洗いしていた。

一方の妻は、ちょうど風呂から上がるところだった。
入浴中でも外の気配は何となく分かる。誰かが慌てた様子で脱衣所に来て、
洗面所で何かしてるみたい、という認識はあったようだ。

ただ、ドア1枚隔てた向こうにいるのは夫、つまり俺だと信じて疑わなかった。
そりゃそうだろう。家に来た客人がトイレを借りることはあっても、
風呂場に入ってくるなんて、普通は想定しないもんだ。
偶然が産んだ悲劇というか喜劇が起きる舞台は、こうして整ったんだな。

「あなた、もう遅いし、あんまり…」

何の前触れもなく、妻が脱衣所に通じる風呂場のドアを開けた。
脱衣所にいるのは夫だと思い込んでるから、タオルで体を隠すなんてしない。

「えっ、あっ…あの…」

後輩にすれば、いきなり目の前に一糸まとわぬ姿の先輩の奥様が現れたわけだ。
全く想定外の事態に、完全に固まった。慌てて顔を背けるだけの機転も利かない。
口をパクパクさせたまま、視線は熟れた裸体に固定して動かなかった。

妻は最初、事態を把握できていなかった。

コンタクトを外して風呂に入ったとはいえ、俺と後輩じゃガタイが違う。
いくら目が悪くても、普通なら目の前にいるのが夫でないとすぐ分かるはず。
だが、その日に限って…かどうか知らないが、妻は上がる前に顔をすすいでいた。
濡れた顔と髪をタオルで押さえ、視界が利かない状態で脱衣所に出たわけだ。

しかし、そこにいたのは腹の出た夫じゃなく、ビキニショツ1枚の後輩だ。
分厚い胸板に割れた腹筋。筋肉の標本みたいな肉体美が目の前に立っている。

「あんまり○○君に飲ませたら…えっ?」

ここで数秒間の沈黙。互いに固まっていたと思われる。

「あ…あの、すんません…俺、その…シャツ汚して…すんません」
「キャッ」

2人ともかなり飲んでて、頭の回転が鈍っていたのかもしれない。
それでもようやく状況を理解した妻は、小さな悲鳴とともに再び浴室に消えた。
後輩は浴室のドア越しに「すんません すぐ出ますんで」と謝ると、
洗いかけのシャツとズボンを抱え脱衣所を飛び出した。

下着1枚というわけにもいかない。後輩は廊下で濡れたズボンをはき、
素肌にシャツを羽織ると、ビクビクしながら居間へ戻った。

俺はと言えば、座椅子にもたれうつらうつら。後輩が部屋に入ると、
ようやくハッと目を覚まし、「おっ、ちゃんと洗ったか?」と声をかける。
脱衣所での妻とのやり取りには、全く気付いてないようだ。

『すんません 今、脱衣所で奥さんの裸見ちゃいました』
…と、やっぱり謝るべきか。でも、どう言えばいいんだろ。

そうこうするうち、俺がのそっと立ち上がって「じゃあ俺、部屋で寝るわ」。
ソファで横になろうとする後輩に「濡れた服で寝るんじゃねよ」と、
着古しのTシャツと短パンと渡し、おぼつかない足取りで寝室へ消えた。

全くサイズの合わないTシャツと短パンに身を包んだ後輩は、
『マズったなあ。明日の朝、奥さんの顔見られないよ…』と頭を抱えながら、
いつの間にかソファで眠りに落ちていった。

861MB、18:21、MP4
サイズ:480320

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